そうだ、キーマンになろう

私は開発者が何百人も参画するようなプロジェクトに携わった経験はありません。
経験した最大のプロジェクトは、プログラム製造のフェーズでも30名程度の規模で、金額にして約10億円と聞きました。(当初予算は7億程度だったと聞きました)

私はこのプロジェクトの初期メンバーではなく、基本設計の終了時点から限定的な分担で加わり、本番稼働後の保守フェーズでは全体を管理することになりました。
多くのトラブルや無数のバグ対応など、紆余曲折ありましたが、総じてシステムそのものはユーザーに深く受け入れられ、無くてはならない存在となりました。

開発当時を振り返って、思うことがあります。
それは、会社としては約10億円の投資を行った訳ですが、開発現場から見ると、「おそらく6億~7億程度は、無駄な作業、迷い彷徨う人的コストであった」と思われます。

言葉が悪くて恐縮ですが、根本的な原因はPM・SEの力量不足が第一と思います。
「無知の知」をコトバとして知っていても、自分に適用して自戒できる人は決して多くないのかも知れません。
このプロジェクト体制では、年功序列や宴会芸で間違って管理職になった人が権限を持っていました。
業務知識やシステム開発には素人同然(ベンダー丸投げ経験を重ねてきた)なのに、自己顕示欲は旺盛で高いプライドをお持ちなので、彼らなりに自信をもって、全体を掻き乱し続けました。

結果、おそらく4億円程度を費やした時点で、中身はスカスカ、ユーザーの合意なし、整合性や実現性もない、そんな状態でした。
共有フォルダには、ユーザーにボツにされた大量の資料群(私が読んでも意味が分からない)、議事録と称するファイル群(議題も結論も薄い)が保存されています。

そのような中(私はまだ参加前)、たった2人の優秀な人材が参画したことで、一気に歯車が噛み合い始めます。
1人は、団塊世代で業務知識豊富な大ベテラン。
以降、プロジェクト全体の教育者、指導者となってくれました。

もう1人は、いわゆるスーパーマン。
会計にとても強く、超能力者かと思うほどユーザー業務への仮説立てが正確で、ユーザー部門へ直接説明・調整したかと思えば、最適な設計を導き、資料化する。
ITインフラ(大型汎用機、UNIX、Windwos、ネットワーク等々)も熟知しており、DB設計、処理の実現設計、コーディング、ジョブ設計、運用設計もこなし、それは正確・迅速で、開発メンバーへの説明も上手。
成果物は極めて保守性が高く、有事のリカバリ、追跡に配慮している。
協力会社の立場とはいえ、プロパー社員に対して謙虚で、プロパー社員の判断を尊重し、支援を惜しまないという人間性。
書けば書くほど、空想の人物と思えてくるような存在でしたが、この天才は現実です。

私はこの天才さんが活躍している最中に途中参加し、彼を知れば知るほど尊敬し、見て、話して学びました。

本稿の目的は、天才さんのことを紹介したい訳ではなく、プロジェクトのコスト発生要因は、極めていびつであることがある、という事をお話ししたくて起こしました。

キーマンが参加するまでは、プロジェクトは漂流状態にあり、お金を垂れ流し続けました。
世の中、失敗は成功の糧と申しますので、完全に無駄なことはなかなか無いものです。が、少しは「完全な無駄」があるようです。

では、キーマン2人だけで当時のシステム開発が完成したかというと、さすがにそれは無理です。
キーマンが良い流れ、循環を作りだしたからこそ、完成したのだと思います。

キーマンが何をやったか、それは映画監督のような役割を担ってくれたのだと思います。
本物の映画監督には始めから絶対的な権限が与えられるかと思いますが、当時のキーマンに権限は与えられず、責任だけが与えられ、それでも実質的に全体をコントロールしました。

キーマンに「自分がみんなをコントロールしている」という自覚があった訳ではないと思います。
開発メンバーの実状、想定ユーザーの利便性、経営層の期待など、プロジェクトを取巻く諸要素を見据え、何が足りなくて、何を手厚くすれば全体が効率的に動くか、自らはどのように振る舞うべきか、その最適解を自然に考えていったのだと思います。
この「あるべき論」、言うは易く、行うは難し。
実践できる人、成功させる人は、極めて少ないものです。

自ずと身についたヒューマンスキルだけでは足りません。
経験に基づく、あるいは地道な勉強に基づく、具体的なスキルが欠かせません。
その大きな柱の一つが、業務知識だと思います。

私が実際に目の当たりにした天才さんは極端な例かも知れませんが、どのようなプロジェクトでも、少数の有志が協力すれば、同じことが可能だと思います。

一歩ずつ、確実に業務知識を習得していくことをお勧めします。
そして、自らがキーマンになっちゃいましょう。

ものごとは、
・全体の3割しか分からないと、残りが7割であることすら気づかない
・全体の5割が分かると、残り5割はある程度の想像がつく
・全体の7割が分かると、残り3割は自信を持って仮説を立てられる(類推できる)
と思います。


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